白木蓮咲く

歌と日記でつづる、あれから


物言わぬ死者たち眠る東山霊園汚染袋(フレコンバッグ)の高く積まれいる
雪の道ラッセルしつつ行く夫の付けし足跡に重ねて歩く

あとがきより
夫の死が認められなくて、それなら、夫の描いた絵を形として残したいと思った。原発事故の世の中を一枚の絵に込めた白木蓮の絵が、通夜の夜に白く光って浮き上がって見えた。この絵を私の十年余りの原発事故の記録と共に、形にしたいと思った。

40歳から凡人として生きるための文学入門

「こんなはずじゃなかった」「本気出すタイミングが」
「何者にもなれていない」……そりゃおおいに結構! 
凡人を自負する文学研究者による、屈託ない凡人の生活と意見。
凡人だからこそ滋味深い文学の、人生を生きるための知恵が
あなたを待っている。

■目次
まえがき
1 私という凡人 について
この世は生きにくい―凡人であればあるほど/凡人は「影響力が皆無のまま一生を終える人」のこと⁈/凡人への一歩は四十歳を過ぎてから/凡人であることを受け入れる覚悟/私という「ブレない凡人」/両極端な両親(ともに凡人)/「分相応に生きろ」―凡人主義者の母/「凡人こそ努力すべき」―努力主義者の父/意地で英語の本を読み続けた青年時代/凡庸さの厚みが増していく―四十代、凡人の目覚め/老いたらみな凡人
2 カズオ・イシグロの面白さ―凡人だから分かること
カズオ・イシグロの作品から凡人について考える/イシグロの非凡な経歴/非凡人を凡人に格下げするイシグロの小説/「ささやかな満足感」―『生きる LIVING』のメッセ―ジ/いじわるなイシグロ/イシグロの作品の理屈/他者の評価よりも自分の満足感を―凡人へのメッセ―ジ/なぜイシグロの文学に惹かれるのか―『浮世の画家』を読んで/イシグロの超越的視座/変わり続ける時代の趨勢/浮世の世界は乗り越えられるか/イシグロのパラドックス/超越志向を避ける態度―凡人へのメッセ―ジ
3 読書感想文―凡人だからこそ本を読んで考える
山本七平『日本人の人生観』を読んで思うこと/ジェ―ン・E・ハリソン『古代芸術と祭式』から芸術のことを考える/イアン・マキュ―アン『土曜日』は気に入らない
4 平凡な読者のための文学の読み方
文学の授業はなぜつまらないのか/文学を文学の言葉で教えることはむずかしい/自分の書いた論文を学生に読ませてみる/文学を語る言葉について/凡人の不幸―非凡な著作を読んでも非凡になれない/凡人の生き方は凡人から学ぶしかない/ソポクレスの『オイディプス王』―凡人にはこう読める/モ―ム『人間のしがらみ』―凡人のためになる小説/凡人に分かる人生の無意味さこそ文学の入り口
5 平凡な文学研究者のメモ書き
研究テ―マは発酵するのを待つ/問いを立てるとはどういうことか―他人の問い、自分の問い/文学とは? 文学を読むとはどういうことか?
6 文化と凡人―文化、文学、人生と意味付与の関係を考察する
文化とは何か/神、言葉、文化―人間の意味付与が生み出したもの/戦争―無意味な人間同士の無意味な争い/文化は普遍でなく、個別のものである/「言葉ありき」でなく「意味はない」から文化は始まる/人文学―超越的な意味付与でできた学問/文学は人間を映す鏡である/意味と無意味―文化、文学の基底にある二つの命題/個人の感情と想像力/文学研究の意義―作者と読者のコミュニケ―ションを記述する/意味付与の相対化―異なる文化を旅すること/人生と意味付与―E・D・クレムケの場合/人生の意味付けは個人の領分である/開き直りこそ凡人の生き方の極意
あとがき

読者の仕事

私は自分の読んだ本でできている。
深く真摯な読書体験を多様なエクリチュールに昇華させた、思索的個人史。

人生の滋味

江戸を想い、昭和を生きた男が遺した、インタビューなどに答えた言葉。全集にも未収録だったその志が初めて本に。

ぼくの書く鬼平で、平蔵が部下にねぎらいの言葉をかけるのがいいということになってるが、それが普通なんですよ。今ね、女が気がつかないっていうのは、しょうがないよね。男の気が回らないこと、実にこれはおびただしいもんだ、ああ……。
素人が売れる時代なんだろうけど、こんなことじゃ、これからの日本人はどうなってしまうのか、心配だな。

聖ヒエロニュムスの加護のもとに

ジョイス、ホイットマン、バトラーら英米文学から中南米文学、伊文学まで〈世界文学の仲介者〉として多言語の文芸を翻訳したコスモポリタン作家ヴァレリー・ラルボー──聖ヒエロニュムスの論考を筆頭に、500余名の文人をめぐり翻訳の理念、原理、技法がエッセイで説き明かされる翻訳論の白眉。本邦初訳。

邂逅の孤独

<失われたもの>がよみがえるとき…
… 「読書する女性」との出会いが、
若き日の錬頼の記憶と
街の「残された息遣い」を呼び覚ます。
静謐なる「来し方」文学。
巻末に、作品の舞台となった土地にまつわるエッセイを付す。
著者自装。

人生は甘美である

牧野信一を師とし、坂口安吾、中原中也、埴谷雄高を友とした無口な作家。
武田泰淳が褒め、種村季弘が愉しんだ、日本文学史上かくも自由で稀有な、ゆえに孤独な試み。

視覚像がデフォルメし、狂気に近い想像が交ってくる――
戦中戦後の絶えざる噪音、そして批評の無関心のなか、ひっそりと世間へ向けつづけた目。
平凡な風景の底に、光りかがやく宝石の冷めたさ。


【目次】
谷丹三の静かな小説 ―あわせて・人生は甘美であるという話― 坂口安吾
   -column-  信一と安吾
遺恨  
センチメンタリズム 
  帰りたい心 
  星石  
死んだ真似  
フウインム先生 
  悪魔の酒 
  -column-  西洋私小説論(その一) ヘンリ・ミラーについて
黄色い雪だるま  
わが身はいとわし 
  -column-  哄笑論
脱出未遂  
動物貴族 
  闖入者
失行症  
脱がし屋 
  -column-  共犯者
半助場外へいく 
  アヴェ マリア  
-column-  安吾先生とファルス
谷丹三のこと 埴谷雄高  
解説  齋藤靖朗
初出一覧 

中野トク小伝

なぜ寺山修司は、基地の町の中学教師に、75通もの手紙を書き送ったのか。

病床にあった〈才能〉を、物心ともに支えた女性の戦中戦後。
町の歴史をたどりながら記す、二人の交感。

三島由紀夫自決考

長く問われてきた謎に迫る新解釈。没後半世紀を経て見出された答。
文学的死か、政治的死か。

最初の五年で武士の名に恥じぬ肉体をつくり、次の五年で右翼デビュー、最後の五年で私党を結成し……
「葉隠」の哲学に基づく「十五年計画」とはなにか。



■本文中に誤りがあることが判明いたしました。(2021年9月21日)
第七章 林房雄と三島由紀夫  P181、2~3行目

【誤】
そのように徳岡が考えたかどうか、いまや当人も鬼籍にはいっているため確かめようもないが、たぶん考えたことは考えたに違いない。

【正】
そのように徳岡が考えたかどうかはわからないが、あり得ないことではあるまい。

※本文中に登場する徳岡孝夫氏(91)がご存命であることがわかりました。謹んでお詫び申し上げます。

三つの庵

みずからの住まい、佇まいの中心に
文学という名の宇宙が存在する。

H・D・ソロー、パティニール、芭蕉
孤高なるユートピアンの芸術家たちがこしらえた「庵」の神秘をめぐる随想の書。
世界中のすべての隠遁者におくる《仮住まいの哲学》、
孤独な散歩者のための《風景》のレッスン。

ソロー(『ウォールデン 森の生活』)「ウォールデンの小屋は働かない者の住まいでもなければ、働き者の住まいでもない。」
パティニール(15-16世紀フランドルの画家)「パティニールは空の青を、彼の小屋を見せてくれた。物ではなく、深く穿たれたヴィジョンを。万物の隠れ棲むさまを。」
芭蕉「たしかに芭蕉は「地の果て」に憧れてはいたものの、彼が旅から学んだのは、どんな境界であれ、結局は私たちが今いる場所を通過するという事実だった。その教えは絶対である。だから、旅路の果てに行き着くには、仮小屋を作るだけで十分なのだ。」

原著:Christian DOUMENT TROIS HUTTES, Éditions Fata Morgana,2010

片山廣子幻想翻訳集ケルティック・ファンタジー

大正期、アイルランド文芸復興運動に日本から連帯した翻訳家・松村みね子=片山廣子。 芥川や鴎外が激賞した美しき夢想の徒による、野蛮かつ荘厳な、精霊が息づく世界。 17歳の三島由紀夫が熱狂した、ケルト綺譚「かなしき女王」、1世紀経て、初めて完全再録。 ●目次 ケルト綺譚「かなしき女王」 マクラオド作  海豹  女王スカーアの笑い  最後の晩餐  髪あかきダフウト  魚と蠅の祝日  漁師  精  約束  琴  浅瀬に洗う女  剣のうた  かなしき女王 参考資料●初出誌版(かなしき女王/女王スカーアの笑ひ/一年の夢/海豹/琴  夏目漱石「幻影の盾」 現代語訳 印度風綺譚 ベイン作  闇の精  スリヤカンタ王の恋  青いろの疾風 アイルランド民話  河童のクウさん  主人と家来   鴉、鷲、鱒とお婆さん  ジェミイの冒険  「燈火節」より  北極星  大へび小へび  蝙蝠の歴史  燈火節  古い伝説  四つの市  ミケル祭の聖者  イエスとペテロ  アラン島  王の玄関  鷹の井戸  過去となったアイルランド文学 編者解説

イェレナ、いない女 他十三篇

目にするものはすべて詩であり、手に触れるものはすべて痛みである。 不正義、不条理に満ちた世界で人びとはいかに生きるか、歴史に翻弄される民族を見つめ、人類の希望を「橋」の詩学として語り続けた、ノーベル文学賞作家アンドリッチ。 短篇小説、散文詩、エッセイを収録した、精選作品集。 ■短篇小説 アリヤ・ジェルズレズの旅 蛇 石の上の女 一九二〇年の手紙 三人の少年 ジェバの橋 アスカと狼 イェレナ、いない女 ■散文詩 エクス・ポンド(黒海より) 不安 ■エッセイ スペインの現実と最初の一歩 コソボ史観の悲劇の主人公ニェゴシュ いかにして書物と文学の世界に入ったか

セピア色のスケッチブック

京都大学音楽研究会で過ごした日々への懐旧、その後従事した宇宙開発への探究心、そして変わらぬ文学への憧憬――。多様な領域への関心を一つの足跡として描いた随筆集。

1
偶奇性の法則
雪とメルヘン
学生さんの街
音研遊楽記

2
ストラスブール随想
近代ロケット伝来考
宇宙開発って何?
宇宙は有限である?
鳥の眼、虫の目、宇宙の眼
スペース・シャトルとの遭遇

3
マルヴィーダの『回想録』
青春時代の思い出に―学生のための読書論―
今どきの若いもの
この頃都にはやるもの
浜松随想
藪医者の効用
ゲーテの言葉より
ニューヨークの友
五〇年目の音研切抜帳
小尾俊人さんとゲーテに寄せて
小尾さんのこと
イタリア式学問のすすめ

4
濱多津先生のこと
『三文評論』の頃
京城(ソウル)の夏
つれづれ さんじゅ草
笹岡君の死に寄せて

みんなみんな逝ってしまった、けれど文学は死なない。

「あの彼らの姿を、私たちは忘れてはいけない。」
「今を生きる文学者の使命」とは何か 「文壇おくりびと」を自任し、つねに「文学のリアル」を追い求めた評論家・坪内祐三が書き継いできた、追悼と論考、文芸誌を中心とした雑誌ジャーナリズムと書店へのオマージュ。

目次
第1章 文壇おくりびと
福田恆存 嫉妬心がない保守思想家
梅棹忠夫と山口昌男が鰻を食べた一九八八年春
山口昌男 「知の速射砲」を浴びせた恩師
常盤新平さんありがとうございました
私は安岡章太郎の影響を受けているかもしれない
「町の普通のそばや」と秋山駿さん
大西巨人さんの眼
野坂昭如は倒れた時もすごい現役作家だった
マイ・バッド・カンパニー(中川六平、吉田司、岡田睦)
第2章 津島の文学史
小林秀雄は死ぬまで現役だった
正宗白鳥
「第三の新人」としての長谷川四郎
『群像』で辿る「追悼」の文学史
十返肇は文壇の淀川長治だった
第3章 福田章二と庄司薫
福田章二論
庄司薫『ぼくの大好きな青髭』
第4章 雑誌好き
『文藝春秋』新年号に時代を読む
ミニコミと雑誌の黄金時代
今こそ『新潮60』の創刊を
第5章 記憶の書店、記憶の本棚
本の恩師たち
神田神保町「坪内コーナー」の思い出
高原書店からブックオフへ、または「せどり」の変容
本は売れないのではなく買えないのだ
第6章 「東京」という空間
田中角栄と高層ビル、高速道路、そして新幹線
九段坂
歌舞伎座にはもう足を運ばないだろう
荷風の浅草、私の浅草
第7章 「平成」の終り
借金をするなという父の教え
文学賞のパーティが「薄く」なった理由
厄年にサイボーグになってしまった私
「第二の玉音放送」の年「中年御三家」が夜を去った
平成三十年に私は還暦を迎えた
「跋文」東京タワーなら倒れたぜ 平山周吉
関連年表
坪内祐三著作一覧
索引

雑魚のととまじり

2020年6月5日出荷開始予定
師事した江戸川乱歩、協働した高橋鐡らの知られざる事実。
あの私家版を新編集。

関東大震災、金融恐慌、満州事変、日支事変、大東亜戦争、配線、そして高度経済成長、バブル崩壊を生き抜いた、近世風俗研究の巨頭による記録。
大正生れの東京少年は、探偵小説のマニヤとなり、古本屋を巡るうち、男色物を含む春画など、軟派分権の蒐集、研究に没頭、ついにはワイセツ図画頒布罪で逮捕される……。

玉まつり

復員後の深田久弥が志げ子夫人と暮らした大聖寺・金沢で親しく夫婦の謦咳に接した著者には、思いがけぬ深田の噂は大きな謎となった。 作品を丹念に読み解くことで昭和文学史の真実に迫る。久弥、八穂、志げ子への鎮魂の書。

東京の面影

明治に生まれ、昭和に生きた直木賞作家で多才な文筆家の、絶品の筆致を再構成。東京の町並み、人、芸、味……

断想集

イタリア人に最も愛されている詩人にして、漱石や龍之介らにも影響を与えた19世紀イタリアの思想家・哲学者の、実存主義に先駆けた哲学散文集。

本書の訳者解題はnoteで公開しています。

ルリユール叢書のInstagramインスタグラムはこちらです。

荷風を盗んだ男

荷風の偽筆を製作し、『四畳半襖の下張』(生田耕作校訂版を本書に収録)を売り捌いた「インチキ渡世のイカサマ師」にして、この顛末を描いた荷風の小説「来訪者」の木場貞」のモデルだった男。その生きざまに迫る資料集
本文1ページ「はじめに」の「猪場毅」の「毅」のルビに「誤りがありました。 正しくは「たけし」です。 ここに訂正させていただきます。

読むよむ書く

「僕たちはいつも、愛読する作家の作品から、人生や世界の肯定のしかたを学んでいる。」 太宰治からみうらじゅんまで必読の50冊。