村上春樹とフィクショナルなもの

「僕」はいま同時に二つの場所にいる――
地下鉄サリン事件を起こした麻原彰晃へ、小説家としての「負い目」を感じる村上春樹―。
『アンダーグラウンド』以降、どのようにこれを払拭するのか?
『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』をメタファー物語論で読み解き、村上春樹の新たな挑戦と試みを差し出す画期的な論考。

「還って来た者」の言葉

私たちをばらばらに切り離し、再生不可能と思えるほどの孤立をもたらしつつあるコロナ禍。その中で、他者との連帯と協調はいかにして可能か。親鸞の「悪人正機説」、吉本隆明の「往相還相」、イエスの「私に触れてはいけない」、村上春樹の「影」――絶望的な危機のさなかで古今の言葉を読み継ぎ、「反動感情」から「配慮」へと希望の隘路を見出す。閉塞的な現在状況に批評家が全力で応えた最新評論集。

【内容】
はじめに

Ⅰ 吉本隆明・親鸞・西行・ヴェイユ
死を普遍的に歌うということ――吉本隆明と立原道造
なぜ「極悪人」に「救い」があるのか――吉本隆明『最後の親鸞』』を読みながら
「還ってきた者」の言葉
「パラドックス」としての〈共生〉
竹の葉先のかすかな震え
西行の歌の心とは何か――工藤正廣『郷愁 みちのくの西行』
なぜいま絶対非戦論が問題とされなければならないのか――吉本隆明『甦えるヴェイユ』について

Ⅱ 加藤典洋・村上春樹
「ただの戦争放棄」と「特別な戦争放棄」――加藤典洋の戦後観と『9条入門』
内面の表象から欲望の肯定へ――加藤典洋の村上春樹評価をめぐって
村上春樹の物語の後に
回生の言葉――江田浩司『重吉』
理由なき死――松山愼介評論集

Ⅲ 大澤真幸・ジジェク・アガンベン・カツェネルソン
コロナ禍のなかでいかに生きるか
負け損をする人々への配慮

証言――あとがきに代えて
覚書