人生は甘美である

牧野信一を師とし、坂口安吾、中原中也、埴谷雄高を友とした無口な作家。
武田泰淳が褒め、種村季弘が愉しんだ、日本文学史上かくも自由で稀有な、ゆえに孤独な試み。

視覚像がデフォルメし、狂気に近い想像が交ってくる――
戦中戦後の絶えざる噪音、そして批評の無関心のなか、ひっそりと世間へ向けつづけた目。
平凡な風景の底に、光りかがやく宝石の冷めたさ。


【目次】
谷丹三の静かな小説 ―あわせて・人生は甘美であるという話― 坂口安吾
   -column-  信一と安吾
遺恨  
センチメンタリズム 
  帰りたい心 
  星石  
死んだ真似  
フウインム先生 
  悪魔の酒 
  -column-  西洋私小説論(その一) ヘンリ・ミラーについて
黄色い雪だるま  
わが身はいとわし 
  -column-  哄笑論
脱出未遂  
動物貴族 
  闖入者
失行症  
脱がし屋 
  -column-  共犯者
半助場外へいく 
  アヴェ マリア  
-column-  安吾先生とファルス
谷丹三のこと 埴谷雄高  
解説  齋藤靖朗
初出一覧 

魔法の指輪 ある騎士物語(上・下)

『ウンディーネ――水の妖精』の詩人が書いた大ベストセラー小説が、210年の時を超えて蘇る!――『指輪物語』『ナルニア国物語』の先駆となった冒険ファンタジー小説の原像。汎ヨーロッパのヴィジョンを夢幻に繰り広げた、力と美の奔出する中世騎士道絵巻。本邦初訳。

上:第1部+第2部第11章まで 384頁
下*第2部第12章から+第3部+著者年譜+解題 496頁

運河の家 人殺し

〈メグレ警視〉シリーズの作家が、人間であることの病いをどこまでも灰色に、〝イヤミス〟以上にほろ苦く描く——シムノン初期の、「純文学」志向の〈硬い小説〉の傑作2篇がついに本邦初訳で登場! シムノン研究家の顔をもつ小説家・瀨名秀明による、決定版シムノン「解説」を収録。

彼は疲れはて、眠りこんだが、激しい頭痛で目が覚めてしまった。強迫性のものだった。自らを取り巻くこの単調さ(グリザイユ)、空虚、無気力からどう抜け出したらいいかわからなかった。こうした生気のないところで、彼の人生は希薄になった空気中の炎のように燃えつきようとしていた。

放浪者 あるいは海賊ペロル

若くして祖国を離れ、他郷での船乗り体験から作家へと転身、複数の言語と文化を越境しながら、政治小説、海洋小説の名作を世界文学に残した〝二重の生を持つ人〟コンラッド――ナポレオン戦争期の南仏・地中海の、老練の船乗りの帰郷と静かな戦いを描く、知られざる歴史小説。本邦初訳。

憂鬱は、ペロルには馴染みのない感情だった。というのも、そんなものは海賊、つまり「沿岸の兄弟」の一員の人生には関係がないからだ。〔…〕陰気な憤怒や狂ったようなお祭り気分が外からやって来て一時的に爆発したことならあった。しかし、すべては空しいというこの深い内なる感覚、自らの内なる力を疑うあの気持ちを味わったことは彼には一度もなかった。

ルツィンデ 他三篇

「精神と官能」「男と女」――色鮮やかな生の無限の混沌を、あふれる機知とイロニーでもって、めくるめくアラベスクへと織りあげたマニエリスム小説の傑作『ルツィンデ』のほか、文学と哲学、そして愛をめぐるフリードリヒ・シュレーゲルの初期批評3篇を収録。

■目次
ルツィンデ ひとつの小説(ロマーン)
ディオディーマについて
哲学について ドロテーアヘ
小説(ロマーン)についての書簡
註/フリードリヒ・シュレーゲル年譜/訳者解題

おせん

邦枝完二の新聞連先小説。
「邦枝君のみ中年に至って、精力毫(ごう)も昔日に異らず、思想再芸今やまさに円熟大成の境地に到らんとす。其近業にして今汎(あまね)く世に迎えらるるものは、専(もっぱら)江戸市井の風俗生活を描写せし小説なり」(永井荷風)
小村雪岱は、この挿絵の仕事で、「雪岱調」を完成させた。

挿絵99点+カット7点を、編者が完全再現。

復讐の女/招かれた女たち

【お詫び】
奥付の著者名:シルビア・オカンポとなっておりますが、正しくは シルビ・オカンポ です。訂正いたします。

ボルヘスやビオイ・カサーレスに高く評価され、「アルゼンチン文学の秘宝」とも称された短編小説の名手シルビナ・オカンポは、日常生活に隠された不思議から奇想天外な物語を引き出した。幻想的リアリズムの頂点をなす怪奇短編集『復讐の女』と『招かれた女たち』の全78篇を収録。本邦初訳。

収録作品

復讐の女
金の野兎/ 続き/ 病/ 後裔/ 砂糖の家/ 時計の家/ ミモソ/ ノート/ 巫女/ 地下室/ 写真/ マグシュ/ 土地/ 品々/ 私たち/ 復讐の女/ 引き出しに紛れ込んだ手紙/ 死刑執行人/ 黒アサバチエ玉/ 最後の午後/ ビロードのドレス/ レオポルディーナの夢/ 周波/ 結婚式/ 女性患者と医師/ 電話の声/ 罰/ お祈り/ 創造(自伝的物語)/ 吐き気/ 快楽と罰/ 友達同士/ 天国と地獄の報告/ 絶滅しない人種/

招かれた女たち
あんな顔つきだった/ 雄牛の娘/ 脱走/ ベッドの下の手紙/ 現像/ アメリア・シクータ/ 黒雑貨屋/ 階段/ 結婚式/ 科学の進歩/ 幻視/ 寝床/ 煙の輪/ 檻の外/ イシス/ 復讐/ シビュラの恋人/ モーロ/ エクアドルの不吉な男/ 魔法の医師/ 近親相姦/ 手の平の顔/ 愛人たち/ ティルテ温泉/ 地下生活/ 鬘/ 贖罪/ 亡霊/ マルメロの牝鶏/ セレスティーナ/ イセラ/ 完全犯罪/ 結び目/ 愛/ 致命的罪悪/ ラダマンテュス/ 穀物倉庫/ 刻印の木/ 別れの手紙/ 魔法のペン/ ポルフィリア・ベルナルの日記/ ミス・アントニア・フィールディングの話/ 招かれた女たち/ 石/ アドラーノ寺院のマスチフ犬/

フェイドアウト

活動写真の先駆者(パイオニア)たち。


「そや、喪が明けたときにすぐにでも公開できるよう会場を押さえとかなあかん]
 このときの判断が後々、日本映画史に確固たる足跡を残すことになった.
明治29年(1896)、大阪。
本邦初の映画が、難波で上映された。
ヴァイタスコープ、シネマトグラフ……映写機初輸入秘話。

皇帝溥儀

壮絶な引揚体験と焦土の東京が幻視させた、夢想の大殿堂。
皇帝溥儀(ラスト・エンペラー)は二人いた? 
元宮廷女官が発表した謎の手記をめぐり大胆な綺想を展開した未完長篇(表題作)はじめ、傀儡国家の盛衰に運命を翻弄された人々を描く作品集・満洲残影篇。


■収録作
皇帝溥儀
灯は国境の町に消え
東條元首相の横顔
大僧正と天使
明けゆく道

附・山下武「橘外男の満州物考察―「皇帝溥儀」を中心に」

修繕屋マルゴ 他二篇

偽善社会をこき下ろし、ディドロに「心臓に毛が生えている」と評された、人相不明の諷刺作家フジュレ・ド・モンブロン――エロティックな妖精物語『深紅のソファー』と遊女の成り上がりの物語『修繕屋マルゴ』、奔放不羈な旅人の紀行文学『コスモポリット(世界市民)』を収録。

部屋をめぐる旅 他二篇

フランス革命の只中、18世紀末のトリノで、世界周游の向こうを張って42日間の室内旅行を敢行、蟄居文学の嚆矢となったグザヴィエ・ド・メーストル「部屋をめぐる旅」――その続編「部屋をめぐる夜の遠征」、および「アオスタ市の癩病者」の小説3篇と、批評家サント゠ブーヴによる小伝を収録。

■収録作
部屋をめぐる旅
部屋をめぐる夜の遠征
アオスタ市の癩病者

予は如何にして文士となりしか

奔放無類のストーリーテリングと、類人猿への異常な執心。

軍人の父に放逐された文学好きの不良少年は、芸妓と出逢い一大改心。貿易商のかたわら小説家デビューし、あれよという間に直木賞。しかしその回想はいつも微妙に食い違う……
虚々実々に彩られた怪作家の人生をたどる自伝物語篇。

■収録作品
春の目覚め
若かりしとき
懐かし金春館時代
結婚とは
予は如何にして文士となりしか
人生は六十五歳から

附・資料
解説「虚実入り乱れる橘外男の自伝作品」:川口則弘

リトル・ヴェニス

1970年代、独り家を出てイギリスへ絵を描きに行く画家。生まれ育った東京の記憶を瑞々しく回想する青年、大災害で壊滅した世界を生き抜く二人の男……
言語と映像の関係を思考し続けてきた著者が作り出した
20世紀文学の記憶が様々に谺する文学空間

■目次■
リトル・ヴェニス
蝉【正しくは正字】しぐれ
口をきかない陰
「母への手紙」
風 (戯曲)


リトル・ヴェニス:ロンドン中央部、ウエストミンスター特別区にある三つの運河の集結地点の通称。本場ヴェニスに負けない雰囲気は、多くの人の憩いの場、癒しの場となっている。

燃える地平線

日本文学史上稀有の国際的スケールと型破りのジャンル混淆的ロマン性によって、コロナ禍の今こそ再評価されるべき作家・橘外男の、主な単著未収録作品を三つのテーマで編纂した、三冊連続刊行企画・第一弾(創作実話編)。 「悽愴、怪奇、愛慾、冒険! これぞ真に大人の読むべき小説だ!」 直木賞受賞作「ナリン殿下への回想」の続編的内容である表題作はじめ、「MR・タチバナ」が語る数奇な物語の数々。著者が最も得意とする「創作実話」の観点から、未収録作品を精選した秀作集。

過去への旅 チェス奇譚

無情な現実に引き裂かれる男女の合間をドラマティックに物語る、本邦初訳の未完小説『過去への旅』。
作者の生涯最後の日々に完成した、チェスをめぐる孤独と狂気の心理を克明に描く『チェス奇譚』。ツヴァイクの生涯を貫く〈内的自由〉の思想を映した二つの傑作中編。

何ものへも導くことのない思考、何も算出しない数学、作品のない芸術、実体のない建築、そしてそれゆえにこそ、疑う余地なくそのありようと現存性において、どんな書物や芸術作品よりも永続的である……

熊出没注意

作家生活30年記念。自選10篇収録。「作品の履歴書としてのあとがき」125枚付。

ニルス・リューネ

生の豊穣と頽落、夢想の萌芽、成熟から破綻までを絢爛なアラベスクとして描きだした、世紀末デカダンスに先駆ける〈幻滅小説〉。リルケ、トーマス・マン、ヘッセ、ツヴァイク、ホーフマンスタール、ムージル、ジョイス、ルルフォを魅了した19世紀デンマーク文学の傑作長編。

◆本文より
退屈な生のいつ終わるともない寂寞(せきばく)のなか、空想が光輝の花を振り撒(ま)いた。夢みるような気分が胸内にただよい、生気あふれる芳香で心を誘い、蝕んだ。香りには、生気に渇えた胸さわぎの甘やかな毒が潜んでいた。


彼の語りの静かな淵泉から掬いとられた一滴一滴は、ひと雫の霊液かもしくは毒液ほどに重く強烈で、薫気の凝滴のように香りたっている。彼の朗読には、心を傾惑し陶酔させるものがある。我々の散文のうちに醸成された、芳烈この上ない気分をたたえた美酒である。
──ギーオウ・ブランデス

ヤコブセンの書物は、どこをとっても繊美な詩人の作です。当世がこの領域で生み出した、最上の傑作に属するといっていいでしょう。
──ヘンリック・イプセン

ニルス・リューネという、情熱に富んでいるがまるで才力はなく、生への無限の意志を抱きながら、夢想に窒息し重苦しい倦怠にうち拉がれているといった具合の、この半ばヴェルターにして半ばハムレット、はたまた半ばペール・ギュントともいうべき男によって体現された、空想的ながら深邃きわまりない独特な形影に、その憧れまどう遍歴に、我々は彼の感傷家的な気質を、いたましい鬱屈を、堰きこめられた憧憬を、そして、心底からの望みが叶うことなどないのだという悲劇めいた悟りを認めるのである。
──シュテファン・ツヴァイク

私は『マリーイ・グルベ』が心から好きです。『ニルス・リューネ』は輪をかけて好きです。いずれも堂々たる書物です。
──T・E・ロレンス

ヘンリヒ・シュティリング自伝 真実の物語

貧困に負けず学問を続けて大成する、独学者の数奇な人生行路を描いた18世紀ドイツの自伝文学。「疾風怒濤」運動の中心人物ゲーテ、観相学者ラヴァーター、思想家ヘルダーらとの親交から生まれた、〈ヴィルヘルム・マイスター〉よりも大衆に読まれた教養小説。本邦初訳。

◆本文より
聴衆の前で話しているとき、シュティリングは水を得た魚(うお)であった。話しているうちに彼の頭の中で概念がどんどん発展していき、しばしばすべてを言い表すための十分な言葉を見つけることができないほどだった。話しているとき、シュティリングという存在そのものが明るく晴れわたり、混じりけのない生命とその表出そのものになった。

ユング゠シュティリングのエネルギーの本質は、決して揺らぐことない神への信仰と、あらゆる災厄から間違いなく彼を救い出してくれる神慮への信頼に端的に表れていた。
──ゲーテ

現存するドイツ書のうち、最良の書であるエッカーマンの『ゲーテとの対話』を除けば、いったい何が繰り返し読まれるに値する散文文学だろうか。リヒテンベルクの『箴言集』、シュティフターの『晩夏』、ケラーの『ゼルトヴィーラの人々』、そしてユング゠シュティリングの『自伝』の第一書。これで当面は種切れであろう。
──ニーチェ

この素朴で胸に沁みる青春物語は、その飾らない筆致と相俟って、今もって感性の鋭い真面目な人々が耳傾けるに値する。
──ヘルマン・ヘッセ

「神の国」へ招かれた者の一人、まるで、そこからやって来て、「神の国」の存在を我々が見聞できるように保証してくれる人。
──ヨーハン・ペーター・ヘーベル

ユング゠シュティリング殿、私に真に実践的なキリスト教の要諦を教えてください。
──アレクサンドル一世

ミルドレッド・ピアース 未必の故意

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のJ・M・ケインの、映像化されたノワール文学の傑作。大恐慌のロサンゼルス郊外で、役立たずの夫を追い出した女が奮闘する、奮闘する愛と金と逸脱の物語。
アメリカの大衆の夢と欲望を描く。本邦初訳。

ロス・マクドナルド「ケインの日常的細部への卓越した観察眼はジャーナリスト出身ゆえだとわかる」
トム・ウルフ「騒がず落ち着いてジェイムズ・M・ケインを読んで小説の書き方を学習しろとノーマン・メイラーに勧めてやった。」