戦場、野戦病院、兵舎、総司令部などにおける「現実」を直視し、戦時下の軍人や女たちの生を鮮明に描き出すことによって、戦争美化の言説に抗議の声をあげる――パリ郊外のメダンにあるゾラ宅に集った、モーパッサン、ユイスマンスら6人のフランス自然主義作家が普仏戦争(1870-71)を記録、諷刺した短編小説集。本邦初完訳。
※『メダンの夕べ』:メダンはパリ郊外の小村。メダンのゾラ宅に、自然主義文学者ゾラに共闘の意を示す若き五人の文学青年たちが集い、ゾラと一緒に、普仏戦争を題材にした共作短編集を作ることになったことから付けられた題名。ゾラを除く五人の青年は二十歳前後で普仏戦争時に従軍。普仏戦争の現実こそ自然主義文学の対象にふさわしい題材と捉えた。
※普仏戦争:1870―71年、ドイツ統一をめざすビスマルク率いるプロイセンと、第二帝政下フランス(皇帝ナポレオン三世)との間で行われた戦争。スペイン王位継承問題をきっかけに、プロイセンの挑発に乗りフランス側から開戦。ドイツ諸邦はプロイセン側に立って参戦し、フランスに圧勝。敗れたフランスは、アルザス‐ロレーヌをプロイセンに割譲。第二帝政が崩壊したフランスではパリ・コミューンが成立。その後、第三共和制となる。
【目次】
序文
水車小屋の攻防 エミール・ゾラ
脂肪の塊 ギ・ド・モーパッサン
背囊を背負って ジョリス゠カルル・ユイスマンス
瀉血 アンリ・セアール
大七事件 レオン・エニック
戦闘のあと ポール・アレクシ
補遺一 (五十周年記念の再刊に寄せた)レオン・エニックによる序文
補遺二 メダンの夕べ―どのようにしてこの書が作られたか
註
『メダンの夕べ』年譜
訳者解題